車いすフェンシングの競技経験者としてスポーツでの学びを語ります。
メダルを獲ったとか優勝したなど輝かしい実績は自分には有りませんが、経験者として主観も含めた競技の面白さをお伝えしながら得られた学びを紹介できればと思います。
ではこのテーマについて自分が語れる材料と根拠を示しておきます。
- 2001年から車いすフェンシング競技を開始
- 世界選手権に出場
- 2010年広州アジアパラリンピックに出場
▼このページで取り上げたいこと
- フェンシングの魅力と面白さ
- フェンシングで体験する【ソーン】の領域
- 海外遠征で気づいた学び
なお種目ごとの競技ルールや、武器などについてはこのページではあまり詳しく触れません。
ルールを知るだけであれば他に詳しく解説されているサイトさまが存在しますのでここでは割愛します。
あくまでこのページの主題はぼくの競技経験で感じたフェンシングの魅力や体験によって得られた気づきを語ります。
それでは僕がなぜフェンシングに取り組むことになったのかそもそものキッカケから説明しておきます。
車いすフェンシングに取り組んだ理由と魅力
ぼくが車いすフェンシングに取り組んだ理由は10代の頃に憧れたオートバイレーサーや世界選手権レース(現在はMotoGPの名称)の存在があったからです。
つまりバイク事故で車いす人生を生きることとなり目指したかったオートバイレースにチャレンジ出来なかった悔しさがずっと気持ちに残っていました。
そんなモヤモヤとした気持ちで過ごした33才の頃に車いすフェンシングに関わりのある人から声をかけられ練習を見学したことが始まりです。
この出来事をきっかけにぼくはフェンシングにのめり込み世界選手権やアジアパラリンピックに出場することが出来ました。
▼車いすフェンシングの特徴
車いすフェンシングの特徴は近い間合いとスピード感です。
なぜなら車いすフェンシングは相手との間合いを取らずに、すぐ攻撃が可能な距離からゲームがスタートする特徴があります。
通常の立位のフェンシングならセンターラインを中心に4メートルの距離を取った間合いからゲームが始まります。
しかし車いすフェンシングでは専用コートに車いすをガチガチに固定するのでフットワークを取ることはできません。
つまりカツカツに近いディスタンスから競技がスタートし、上半身を若干に後ろに反らす程度しか後退できない状態で試合が展開されます。
なので距離を切って相手の攻撃をかわすということは基本的に不可能なので全て剣での防御になります。
そんな意味ではタイトでスピード感のある試合が展開される競技特性を持ち、攻撃→防御→攻撃という入れ替わりの激しい場面を見ることができます。
剣を持つ利き腕は対戦相手に向けてまっすぐに伸ばせば相手の有効面までわずか数センチほどの距離になります。
攻撃を決めるためには対戦相手側に上半身を傾け有効面を狙います。
剣が相手の有効面(ユニフォーム)に触れ、ポイントと呼ぶ剣先に付くボタンスイッチに加重がかかることで審判機に表示ランプが点灯します。
審判機の表示と審判の目視を加えたジャッジによってプレーごとに勝敗が決定されます。
▼試合の合図
試合の合図は審判の掛け声と同時に試合が始まります。
審判の掛け声は正式に下記のように表現されます。
▼引用
主審が「Êtes-vous prêts ?エト・ヴ・プレ」または「Prêts ?プレ」(用意はいいか?)と確認し、選手は「Oui.ウィ」(よし)または「Non.ノン」(まだ)で答える。主審による「Allez !アレ」(始め)の合図で試合が開始される。
参照【ウイキペディア】
実際の試合の場面ではまず審判が対戦相手に敬意を示すことを促す掛け声「サリュー」で礼を行います。
審判にも礼を行います。
サリューを終えると剣を構える合図を示す「オンガード」の掛け声がかかり次に「エルプレ、アレ!」でゲームが始まります。
審判が使う言葉は基本はフランス語となってますが英語もところどころ混じってます。
なおフェンシングには3種目が存在しフルーレ、エペ、サーブルがあります。
ぼくはフルーレとエペの二つの種目で試合にエントリーしてきました。
種目ごとに使用する武器と用具、ルールはそれぞれ変わります。
種目ごとにマスクと剣を使い分けるので荷物の梱包と運搬がめちゃめちゃ大変です。
車いすフェンシングの激しい攻防
剣を持つ腕を伸ばして上半身を少し傾けるだけで相手の有効面に剣先が触れてしまう距離感だけに、攻撃と防御の攻防が目まぐるしく変わります。
対戦相手とのスピード差があればシンプルな突き(アタック=ファント)で攻撃できます。
しかし余程のスピード差がなければシンプルなアタックではなかなかポイントを獲得できません。
なのでフェイントを考えたり、相手に攻撃させておいてそこからの展開で有利な試合運びを考えます。
自分のやりたいことが全て通用して勝てる場面ばかりではないので切り替えの速さと対応力が必要になります。
相手と自分の実力差を慎重に図りつつ試合を組み立てていく面白さ(難しさ)があります。
相手の防御のスキを作るためにフェイントをしかけたり、わざとミスをしてみせたりと心理戦を展開します。
心理戦を展開しながら組み立てた作戦がガッツリとハマったときの興奮がフェンシングの最大の面白さだと思っています。
ワンパターンのマンネリでは絶対に勝ち上がっていけない競技です。
フェンシングの有用性と体感する【ゾーン】
競技を始めた最初のころ、ぼくはバカのひとつ覚えのように先手必勝とばかりに「アレ!」のタイミングで攻撃を仕掛けるタイプでした。
しかしそうそうカンタンに突かせてくれる相手ばかりではありませんから色々と作戦を考えたり、攻撃と防御のバリエーションをある程度持っておく必要があります。
攻撃と防御のバリエーションを増やし反復練習をじっくりと行い身体に染み込ませます。
そうした反復練習の成果で試合中に無意識に身体が動く経験が得られます。
あるいはゲームは始まるその瞬間に相手の動きが読める時があります。
このような状況を【ゾーン】と呼ばれると知りました。
こうした経験が得られるフェンシングに競技スポーツとして有用性を感じます。
▼フェンシングにおける【ゾーン】
猛烈にアタック(攻撃)してきた相手の剣を一瞬の動きで反撃が決まったときの興奮と面白さがフェンシングの魅力です。
プレイが決まった時は誰かが言ってた「ちょー気持ち良い!」あんな感じです。
相手の攻撃に対していったん剣でパラードしてからの突き返しを【パラード・リポステ】と呼びます。
しかし攻撃に対しての防御の流れの動作を区切らずに一つの動きの中で完結する動きのことを【コントルアタック(コントラ)】と呼ばれています。
コントルアタックを文章での説明は大変難しいところですが要は相手の攻撃にうまくタイミングを合わせて自分の剣で攻撃を潰しながら反撃を加える動作を言います。
フェンシングのコントルアタックでイメージしやすいのはボクシングのカウンターが思い浮かびます。
あしたのジョーで【矢吹丈】が得意としていた戦法です。
けれどボクシングのカウンターの場合は自分にもダメージを受けるケースがあるのでフェンシングの【コントルアタック】とは異なる印象です。
あしたのジョーでは力石徹と矢吹丈が最後に見せた試合でジョーがカウンターを仕掛け自分もダウンしています。
フェンシングでは相手の攻撃を利用し自分に有利な結果を導くのでボクシングのカウンターとは全く違います。
コントルアタックは一瞬の動きの中で動作に移すので思考する時間なんてありません。
このような無意識で行動に移せる瞬間は【ゾーン】に入っている状態だと言えます。
映画で描かれるゾーンの名シーン【ラストサムライ】
俳優の渡辺謙氏がハリウッド俳優のトムクルーズと共演した映画【ラスト・サムライ】にゾーンを描いたシーンがあります。
オールグレン大尉を演じるトムクルーズが幕府側が仕向けた刺客勢数人に取り囲まれるシーンです。
オールグレンは斬り合いが始まろうとする中で相手と自分の動きがスローモーションで頭の中に映し出されます。
イメージした通り、見事にオールグレンは刺客を制することができます。
映画だろ!?って思うかもですが、相手ありきの対戦競技をしていると同じような感覚を掴む瞬間があります。
なおカンフー映画の金字塔【燃えよドラゴン】で主人公を演じるブルースリーは「Don’t think. FEEL !」と名言を遺しています。
つまり考えている様では自分のモノになっていない、自然に身体が動くことを感じるレベルまで鍛錬すべきだと彼は言いたかったのではと推測します。
即ちこの領域に到達した状態が【ゾーン】であると考えます。
さてこうしたゾーンの境地を体感できるのはスポーツの魅力の一つだと言えます。
さらにフェンシングの経験によって会得できる感覚の物をメリットととして考えて見ます。
▼フェンシングで磨かれる洞察力
フェンシングの競技経験によって磨かれるモノに洞察力があるのではと考えます。
なぜならフェンシングは相手のスキを見つけ出して攻撃のチャンスを作るスポーツだとも言えるからです。
そんな意味では相手を観察しクセを見抜いていくことが必要です。
何げない動作のなかにも毎回同じような動きが見えてきます。
そのクセを攻撃のキッカケとして優位性につなげていくことになります。
相手の動きから得た情報を材料に攻撃を組み立てていくことが可能になります。
さてこうした洞察力はフェンシングで培われる副産物のひとつとして間違いなく取り上げることができると思います。
ぼくはフェンシングで養われる洞察力は有益なモノとしてビジネス的にも色々な分野に活用できるのではと思ってます。
海外遠征を経験した競技者として感じたこと
ぼくが車いすフェンシングで海外遠征を経験した初めの頃に感じたのはやはり言葉の壁とメンタリティの問題です。
▼英語と言葉の壁
悲しいかな日本人は義務教育で英語を習っているのに海外で外国人相手にコミュニケーションが取れません。
ぼく自身は洋楽が好きで海外アーティストの曲をコピーしてギターで歌ったりするのに英語の学習には発展しませんでした。
そんな中、フェンシングで海外遠征を経験することになり英語でコミュニケーションが取れないっていうのはデメリットがデカいなと感じました。
理由は試合でのエントリーの手続きや武器検査や現場でのもろもろのやり取りの中で関係者の説明が理解できないといろいろと問題がでてきます。
さらに試合中の審判のジャッジに物言いがあるときやはり気後れするところがあります。
気後れだけで済むなら良いのですが間違った判定で負けたりとか不利な試合運びになってしまい、あとあと悔しい思いをするのは自分です。
つまり英語がしゃべれないという感覚が試合に飲まれてしまうことにつながるケースです。
選手によっては試合以前のホテルの段階で萎縮してしまい、ご飯も喉を通らない状態で本番に挑みメタメタなメンタルでさんざんな結果になる場合もあるようです。
旅行レベルならスマホの翻訳アプリやツールを活用すれば良いのですが、競技の場面だとちょっと難しいかなと思います。
ですからやはりこれから海外で活躍したいという夢を持つ人はやはり英語はマスターしておいて損はありません。
僕は競技を経験したおかげで語学力のなさを痛感することになり英会話教室に通い出しました。
しかしフェンシングの練習と仕事の合間を縫って英会話教室に通うのは結構大変でした。
結局は時間を捻出するのも難しくなり英会話教室は途中で辞めちゃいました。
もっと若い頃からちゃんと勉強しておくべきだったと悔やまれます。
今ならオンラインレッスンの環境も整ってきているので海外に興味を持つ人は検討できるのではないでしょうか。
海外遠征経験者として出川イングリッシュとメンタルは見習うべき
海外に行った人間として言えることは最低限単語さえ知っておけばなんとかなります。
とりあえず何か言う前に必ず【プリーズ】と【エクスキューズミー】をつけておけばなんとかなります。
何度か海外遠征に行くと慣れるものですし、最終的には身振り手振りのジェスチャーでも意思を伝えたりは可能です。
見習うべきは出川哲郎さんですね。
あのメンタルを参考にすれば結構いけます。
なんとかなるものではありますが、話せないより話せた方が良いに決まってます。
バスケで活躍する八村 塁さんも海外に行く前の準備として猛烈に英語を勉強されたと聞きます。
やはりプロを目指す人は覚悟が違うと思いました。
車いすフェンシングの経験者が語るスポーツでの学びまとめ!
僕は健常者の頃もオートバイ事故で脊髄損傷になってからの10数年間はスポーツに全く関心を持っていなかったです。
オートバイレースはモータースポーツとも呼ばれていますが、バイクに乗っていた頃はスポーツという感覚は持ってなかったです。
そんなスポーツに無関心だった自分がフェンシングに出会って世界選手権に挑むスポーツに取り組むなんて1ミリも想像してなかったです。
実は怪我をしてから入所したリハビリ施設で車いすバスケやマラソンに誘われて一時的に活動したことはありましたが面白くなくて直ぐに辞めていました。
そんな僕がやりたいと考えたことも無かった競技で海外遠征とパラリンピックへの挑戦は不思議な出会いだと思います。
おそらく性格的に個人競技と対戦競技に向いてたんだと思います。
僕自身は冒頭でも述べたとうり輝かしい実績はありません。
自分に誇れるものがあるとしたら【行動力】と【好奇心】です。
行動力と好奇心のおかげでフェンシングにチャレンジし色々なことに出会い気づきが得られました。
今回の記事はそんな気づきの一部です。
「自分も何か探して見よう」そんな気持ちになってもらえればこの記事は僕にとって有益なものとなります。
星野富弘さんの【愛、深き淵より。】は絶対に読むべき書籍です。
この本読んで何も感じないなんてあり得ません。
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車いすフェンシングでの経験から得られた気づきを全力で語りました。
機会があれば脊損におけるスポーツの必要性とメリットを語りたいと思います。
今回は以上です。
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